冨山氏の著作は過去に数冊読んでいますが、舌鋒鋭く日本の旧システムの改革に切り込む姿勢、議論の切り口、そして内容に、多くを学んできました。
本書は、今後の日本が「少子高齢化による深刻な人手不足と、デジタル化の進展による急激なホワイトカラーサラリーマンの減少と人余りが同時に起こり、ローカル産業で人手不足、グローバル産業で人余りが生じる」(p.4)との認識のもと、これからの日本人への『シン・学問ノススメ』です。
本書において、筆者は(日本の)グローバル企業のホワイトカラーに対しては徹底して現実的で冷徹です。「ホワイトカラーに残る仕事は本当の意味でのマネジメントである。現状、いわゆる中間管理職が担っている管理業務ではなく、経営の仕事だ。これまでは数多くあったホワイトカラーの「部下仕事」は、生成AIに急速に置き換わる。」 (p54)といいます。
そんな中で、「企業は従業員に対して、数少ない「真のボス」ポストを目指して真剣勝負をしてもらうか、部下ホワイトカラーとしてAIの圧力で下がる賃金に耐えてもらうか、それとも人手不足かつ AI代替が起きにくいノンデスクワーカー技能職の世界に転職するか、を問うべき」(p.55)と言います。厳しいですが、もう既にホワイトカラーに突き付けられる問いであることは間違いないでしょう。
そんな世界だから、筆者はグローバルなメジャーリーグの世界で戦えるプロフェッショナルを志向するよりも、「アドバンスト現場人材やローカル系人材に変容することが一つの大きな方向性」であり、それが ホワイトカラーの処方箋になりうると主張します。(p.188)もちろん、人それぞれの志や考えによるとは思いますが、現実的な一つの考え方だと思いました。
そうした世の中で生き残っていくための、具体的な勉強の仕方についても筆者のアドバイスは具体的です。終身年功型サラリーマンな人々の取るべきアクションは、まずはリベラルアーツ基礎編(普遍的によりよく生きていくための基礎技能的意味合い)としての、言語的技能・技法(日本語、英語、 エンジニアリングの世界では 数学、熱力学、電子回路)、経済活動の言語(経済学と簿記会計、基礎法学、 統計学、基礎的な微積分レベルの数学力)を抑えておくべきとのこと。
そして、そうした言語的技法を現代にアレンジして身体化がすることも大切と説かれます。簿記会計はエクセルを使った財務三表の連動モデリング、基礎的な企業財務技法、プログラミング言語 や AIの基本構造、基本特性の理解(pp.. 189ー192)などです。これが基礎編でまだ応用編があるのです。筆者の求めるレベルは一般的なスタンダードからは相当高い!ですが、このぐらいのことはできないとダメと言うことなんでしょう。
ただ、本書は思いの外、読みにくいです。決して書かれている日本語が難しいわけではないのですが、話が飛ぶし、話題が対個人、対企業、対行政と様々な角度を含んでいるからです。それだけ、筆者の関心領域や課題感が広く深いと言えますが、編集がもう少し工夫すればいいのに、と思うところはありました。
(その他個人的抜き書き)
・パワーポイントスライドを書く力は必ずしも 文章を書く力を押し上げないので要注意だ。あのフォーマットはかなりごまかしが効くからだ。Amazon の会議ではパワポは禁止で書く側も読む側も書き下し文で行うことを要求される。(p 197)
・経営に近い仕事をしようとすると 「田舎の駅長さん」のような仕事をしなければならない。現場作業員、中間管理職、経営者の仕事を全て一人でやらなければならない。分業前提の仕事しか経験していないホワイトカラーは役に立たない。田舎の駅長さん的な業務をこなせて初めて人々は人間力を評価してくれる。(p221)